---- 鴻上尚史 「特攻生んだ日本社会は」

9784062884518_w(インタビュー)特攻生んだ日本社会は 作家・演出家、鴻上尚史さん
Asahi_digital朝日新聞ディジタル20188230500

太平洋戦争末期、飛行機ごと敵艦に体当たりする特攻作戦により約4千人の若者が命を落とした。軍幹部ですら、「統率の外道」と指摘したとされる異常な作戦に突き進んだ空気感は、戦後73年たって変わったのか。「不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか」(講談社現代新書)を書いた作家の鴻上尚史さんに聞いた。

――著書では特攻を9回命じられ、9回生きて帰ってきた陸軍の操縦士、佐々木友次さんに話を聞き、彼の生き方を描きました。
 「まずその事実に驚きました。ただ帰るだけでなく、爆弾を落として船を沈めているのですが、参謀や司令官たちはまったく評価しない。21歳の若者に『次は死んでこい』と言うわけです。『爆弾を落として船を沈めればいいと思います』と佐々木さんが言っても、『爆弾を落とした後に体当たりしろ』と言う。死ぬことが目的になっているのです。これだけ言われても、なぜ9回とも帰ってこられたのかを知りたかった」

――結局、なぜ帰ってこられたのでしょう。
 「色々な要素があるのですが、最大の理由は、佐々木さんが空を飛ぶことが大好きだったからだと思います。彼が乗った九九式双発軽爆撃機はあまり評判のよくない飛行機でしたが『乗りこなすと鳥の羽みたいになるんだ』と言っていた。自分の手で大好きな飛行機を壊すことに耐えられなかったんじゃないでしょうか」

 「なおかつ上官にいくら文句を言われても、パイロットだから飛び立てば一人なわけで、精神の自由を保てたのだと思います。『飛ぶことが好き』なんて考えは、当時の軍隊のような超ブラックな組織ではまず言えないことです。日本型組織は、少数の異論を持つ人に暗黙のうちに多数意見と合わせるよう求める同調圧力が強い。これに対抗する最も強力な武器は、『本当に好きだ』という気持ちを持ち続けることだと思います」

――若者たちは自ら特攻兵になったのですか。
 「上官が隊員を並ばせて、『志願する者は一歩前に出ろ』と言い全員が出るまで待ち続けた例や、『行くのか行かないのかはっきりしろ』と突然叫んで、全員が反射的に手を挙げた例もあったといいます。好きでなったとは言えないでしょう。中には、予科練や少年飛行兵など14~15歳から軍隊教育を受けて外部の価値観を知らないまま成長し、志願した人もいたと思いますが、それは1割か2割です。残りは志願という名の強制、命令だったのは明らかです」

 「命令した側は自分たちの責任を明確にしたくないので、『我々が非難されるのは甘んじて受け入れるが、国のために散った若者を馬鹿にしないで欲しい』という、実に卑劣で巧妙な言い逃れをしています。特攻を命令した側と命令された側を、ひとまとめに『特攻』と呼んではいけません」

――特攻を賛美する論調が近年、目立ちます。
 「特攻兵が『ほほ笑んで自らを犠牲にして散っていった』のようなわかりやすい物語はどの時代でも受け入れられやすい。ただ、その裏というか、本当は何があったのかを伝えていくのも、大切な仕事だと思っています」


――特攻を生み出した日本社会のあり方は変わりましたか。
 「日大アメフト部の選手が悪質なタックルをした問題の構造が、特攻の構造とあまりに似ていて、怒りを通り越してあきれました。指導者側は選手が自発的にやったと言い、選手側は指示だったと言う。ただ選手は従わざるを得なかったわけで、僕らは同調圧力の強さの中で、つい忖度(そんたく) してしまう国民性なのです」

――国民性ですか。
 「日本の文化の奥底には村落共同体を守ろうとする意識があって、これを壊そうとするのは天災ぐらい。天災にはあらがってもしょうがないと、与えられたものを受け入れ、現状を維持することが一番重要なんだという文化が根づいているのだと思います」

――共同体は悪でしょうか。
 「もちろん良い面もあって、東日本大震災で壊滅状態だった道路の大半が1週間で通れるようになったのは共同体が機能した例です。復旧工事にかかわった人の中には、まだ肉親が見つかっていない人も、家が壊れたままの人もいました。それでも復興のためなら、何をおいてもやる。絆をもとに動くことが、すべて悪いこととは言えません」

 「しかし、いい結果をもたらさない場合も多いでしょう。ひとつの例が残業です。仕事をするために残業していたのがいつの間にか、上司が残っているから帰れないとか、定時で帰ると仕事していないように思われるとか、残業自体が目的になってしまっている。僕ら、忖度する国民はそれが変だと思いながらも、共同体を維持することが大事だと思い込みがちなので、指摘せずに続けてしまう」

――これは変わりませんか。
 「『不死身の特攻兵』は、最初は歴史好きの人が、その次にサラリーマンが買うようになりました。そのうち女性も買うようになり、ネット上では『PTAと全く同じ』なんて反応があります。最近は高校生や大学生が『これって俺たちのコーチの話じゃん』と反応している。このままではいけないと思い始めている人が、増えてきていると感じますね」


――日本社会の息苦しさについては以前から指摘していました。
 「僕は四国の愛媛県の出身で、両親は小学校の教師でした。教師は理想を語るので、おかしいと思えばおかしいと言う。その影響か、子どものころから朝の6時に役場や公民館がサイレンや歌を流すのはおかしいと思っていました。これは、朝6時に起きる人たちを前提にした社会でしょう。しかし朝寝ていたい人もいるだろうし、家によって生活習慣も違う。こういう慣習を、何十年も残してきたのが『世間』です」

――戦後、高度経済成長期やバブル時代を経ても、「世間」はなかなか変わらなかったと。
 「高度経済成長は、日本のナショナル・アイデンティティー(国民意識)になった。豊かになることに向かいこの国は進んできたけど、バブル経済の崩壊後、失われた20年が来ました。我々は今、ポジティブに言えばどこに向かうべきかを探している時代で、ネガティブに言えば喪失した時代です。

 「一部の人は、世間の人々がみな仲良く助け合っていた、古き良き伝統ある日本に回帰することを目指しています。僕はそれを『世間原理主義者』と呼んでいます。しかし、世間と呼ばれる共通の価値観で生きていく前提は既に崩れているのに、それを取り戻そうとすると、同じ価値観に染まらない人たちへの排斥が始まります。それがLGBT の人は『生産性がない』という驚くべき発言につながるわけです。世の中が多様になる流れは必然で、排斥しても何も始まらないはずです」

――一方で、こうした言動に対抗する動きもあります。
 「そういう面では実にスリリングな時代、おもしろい時代だと思いますね。『生産性』というような視点でしか語れない政治家がいる一方で、すぐに抗議デモが起こる。しかしこれは、両者の分断が進む危険性もはらんでいます。おそらくネットが普及した影響が大きいと思います。新聞がメディアの一番手だった時代は、自分が読みたくないものも目に入りましたが、今は自分の読みたい文章だけ読んで一生を終えられるようになりました。情報がたこつぼ化しているのです」


――「生産性」発言への自民党の対応には批判がありますが、9月の総裁選では、安倍首相3選の可能性が高いと言われます。
 「安倍さんがどうのというより、同調圧力が桁外れに強い国なんだという意識を持っているかどうかが、政治家の立ち位置を決めると考えています。それは自民党だろうが、共産党だろうが、僕はあまり区別していません。他人に合わせて行動するということは、自尊意識が低いこととセットなのですが、それをどれくらい問題だと考えているかで、人はずいぶん違うんだろうと思うんです」

――どういう人にこの国のリーダーになって欲しいですか。
 「本が話題になって、右側からも左側からもいろんな意見がきましたが、結局、同調圧力を求める人たちは、右にも左にもいます。この状況をなんとかしない限り、この国が本当に、健全に一人ひとりが思考することは難しいと分かってもらえる人がいいですね」

――日本の将来に希望はありますか。
 「最近も政府が2020年の東京五輪・パラリンピックの暑さ対策のため、サマータイムの導入を検討すると言っています。導入しなくても、マラソンは朝7時スタートを5時にすればいいだけで、なぜ国民を総動員するんでしょう。いいように忖度する国民なので、目覚め続ける不断の努力が必要です。うかうかしているとえらいことになります。あきらめたら負け。頑張らないと」

(聞き手・諏訪和仁)
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 こうかみしょうじ 1958年生まれ。大学在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げし、プロデュースユニット「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に活動している       pdf:「https___digital.asahi.com_articles_DA3S13646918.pdf」をダウンロード
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